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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)204号 判決

原告 二代目工藤連合草野一家

被告 国家公安委員会

訴訟代理人 青野洋士 名取俊也 石川利夫 森山幸二 小山田才八 吉田宏彦 秋山二郎 田中 徹 水上太平 久保田浩史 佐々木武男 森和雄 ほか五名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が、平成四年一〇月二九日付けでした、福岡県公安委員会が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」という。)三条に基づき原告を同条所定の暴力団に指定した処分に対する原告の審査請求を棄却した裁決を取り消す。

第二事案の概要

一  本件訴訟の概要

暴対法は、都道府県公安委員会が、同法に定める一定の要件を満たす暴力団を、その暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定し(同法三条、以下「三条指定」という。)、その構成員に同法による規制を及ぼすこととしている。

本件は、県公安委員会により三条指定をされた原告が、被告に対し、右指定を不服として審査請求をしたところ、被告がこれを棄却する旨の裁決をしたので、右審査請求手続に違法があるとして、右裁決の取消しを求めて提訴した事案である。

二  当事者間に争いのない事実

1  福岡県公安委員会(以下「原処分庁」という。)は、平成四年六月二六日、暴対法三条に基づき、原告を同条所定の暴力団に指定した(以下「本件指定」という。)。

2  原告は、被告に対し、平成四年八月三日、本件指定を不服として、暴対法二六条一項に基づき審査請求をした(以下「本件審査請求」という。)。

3  本件審査請求の審理手続(以下「本件審理手続」という。)において、原告は、被告に対し、行政不服審査法(以下「行服法」という。)二五条一項ただし書に基づく審査請求人の口頭による意見陳述及び同法二七条に基づく参考人の陳述を申し立てた。

そこで、平成四年一〇月九日、審査請求人並びに参考人として原告の最高顧問及び事務局長の各陳述(以下「本件各陳述」という。)が行われたが、警察庁職員三名がその聴取を担当した。

4  原告は、被告に対し、平成四年八月二七日、行服法二八条に基づき、本件指定の根拠となった一切の書類その他の物件の提出を原処分庁に求めるよう申し立てたが、被告は、同年一〇月一二日、右申立てを却下した。

5  被告は、平成四年一〇月二九日、本件審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

三  争点

本件において、被告は、本件裁決が適法である旨主張するのに対し、原告は、警察庁職員が本件各陳述の聴取を担当したこと、本件審理手続においては十分な審理が尽くされなかったこと、本件裁決には形式不備があること等を理由に、本件裁決の違法を主張している。この点についての当事者双方の主張の要旨は、次のとおりである。

1  警察庁職員が本件各陳述の聴取を担当したことは、違法であるか否か。

(一) 原告の主張

本件審理手続において、本件各陳述の聴取は、被告の委員長又は委員が自ら行うべきであり、警察庁職員がこれを担当したことは、次のとおり、違法である。

(1) 行服法三一条は、審査庁は、必要があると認めるときは、その庁の職員に審査請求人及び参考人の意見陳述の聴取等一定の審査手続をさせることができる旨規定しているところ、「その庁の職員」とは、被告の職員をいうのであって、警察庁職員がこれに当たらないことは明らかである。また、本件審理手続において、被告が本件各陳述の聴取を警察庁職員に行わせる必要も認められない。したがって、同条は、本件審理手続において、被告が本件各陳述の聴取を警察庁職員に行わせたことの根拠とはならないというべきである。

なお、被告は、本件各陳述の聴取を担当した警察庁職員は、国家公安委員会に対する不服申立てに関する規則(平成四年国家公安委員会規則第二号、以下「規則」という。)三条一項に基づき指名された審理官として、被告の指揮監督の下に、被告の補佐を行ったものであるから、行服法三一条の「その庁の職員」に当たる旨主張する。しかし、被告が警察庁職員を直接指揮監督できるとの法律上の根拠はなく、固有の事務局も有しない被告が、同職員を指揮監督することができるはずがないから、法律上も、現実にも、同職員が被告の指揮監督下にあったということはできない。

(2) 暴対法二九条は、被告が警察庁長官に委任することができる事務から同法二六条一項の規定による審査請求に係る事務を除いているところ、被告が、警察庁を管理し、警察権力を民主的に抑制することを目的として設置された行政委員会であることにかんがみると、同法二九条は、制限的かつ厳格に解釈しなければならない。そうすると、同法二九条は、およそ審査請求の一切の手続については、被告が警察庁長官に委任することができないことを定めたものであると解すべきである。

また、規則三条一項は、暴対法二九条についての右の解釈に従えば、同条に違反する無効なものというべきである。

したがって、本件審理手続においては、これを行う権限のない警察庁職員が本件各陳述の聴取を行ったことになるというべきである。

(3) 一般に、審査請求に係る事務については、その権限の全部又はその主要な部分を他に委任することはできないと解されているところ、口頭による意見陳述及び参考人陳述の聴取の手続に関する権限は、被告の権限の主要な部分であるから、これを他に委任することは許されないというべきである。そうすると、本件審理手続において、被告は、本来委任できない事務を警察庁職員に委任し、本件各陳述の聴取を行わせたことになる。

また、仮に、警察庁職員が補佐の限度で本件審理手続に関与できるとしても、本件審理手続においては、被告の委員は、本件各陳述の聴取手続に全く臨場せず、これらの手続のすべてを警察庁職員に行わせた上、裁決に熟したかどうかの判断をも同職員にゆだねたのであるから、本件審理手続には、補佐の範囲を逸脱した違法があるというべきである。

(4) 本件審理手続における各決定通知書によれば、被告は、警察庁職員に対し、その事務を直接委任しているともみ得るところ、権限の委任は、特に法令上の定めがない限り、一つの行政省庁の行政機関が他の行政省庁の行政機関に対してすることはできないと解すべきであるから、本件審理手続においては、被告が警察庁職員に直接委任できるとする法令が見当たらない以上、これを行う権限のない警察庁職員が本件各陳述の聴取を行ったことになる。

(二) 被告の主張

行服法三一条に定める「その庁の職員」とは、審査庁の指揮監督権の下で、審査庁の事務を補助する職員を指称するものであり、当該職員が審査庁の内部部局に属するか外部部局に属するかは問わないと解すべきである。

ところで、被告は、警察法五条二項各号に掲げる事務について警察庁を管理するほか、法律の規定に基づきその権限に属させられた事務をつかさどるものであるが(同法五条三項)、被告には事務局が置かれていないことから(同法四条)、特別の機関として被告に置かれた警察庁(国家行政組織法八条の三、警察法一五条)が、被告の管理の下に、警察法五条二項各号に掲げる事務をつかさどり、同条三項の事務について被告を補佐することとされている(同法一七条)。そして、三条指定に係る審査請求の審理は、暴対法二六条一項に基づき、被告の権限に属させられた事務であるから、これについては、警察庁が被告を補佐することになるところ、規則三条一項は、警察庁長官が、警察庁職員のうちから審理官を指名し、被告の指揮監督の下に審査請求に係る被告の補佐を行わせる旨を定めている。

そうすると、本件各陳述の聴取を担当した警察庁職員は、いずれも規則三条一項に基づき指名された審理官として、被告の指揮監督の下に審査請求に係る被告の補佐を行ったものであるから、本件審理手続においては、行服法三一条に定める「その庁の職員」に該当するというべきである。

また、審査庁が行服法三一条によってその庁の職員に同条所定の行為を担当させるか否かは、審査庁の合理的な裁量にゆだねられているものと解すべきところ、被告は、本件審理手続において、複雑多岐にわたる事実上及び法律上の論点に関する主張がされ、多数の証拠書類等が提出されることが予想されたため、その事務を適正に処理するにつき必要な知識経験を有する警察庁職員に審理に関する事務を担当させる必要があると認め、右職員に本件各陳述の聴取を担当させたものであるから、この点に関する被告の裁量判断には何ら違法がない。

したがって、本件審理手続において、警察庁職員が本件各陳述の聴取を担当したことは、適法である。

2  本件審理手続において、十分な審理が尽くされたか否か。

(一) 原告の主張

本件裁決は、次のとおり、十分な審理を尽くさず、又は実質的な審理をせずに判断されたものであり、違法である。

(1) 被告は、原処分庁が行服法三三条一項により提出した物件のみでは本件指定の理由となった事実を認定するには不十分であるのに、原告の物件提出要求の申立てを却下した。

したがって、本件裁決は、十分な証拠に基づかないで判断されたものというべきである。

(2) 原告は、被告に対し、行服法二六条に基づき、証拠書類及び証拠物を提出したが、本件裁決後に被告から原告に返還された右書類等には、全く損傷や折り目がなく、謄写等をした形跡がなかった。このことからすると、被告の委員長及び各委員は、いずれも右書類等を検討せずに本件裁決をしたというべきである。

(二) 被告の主張

(1) 審査庁が行服法二八条に基づく物件提出要求を行うか否かは、当該審査請求に対する裁決のために必要か否かを考慮して行う審査庁の裁量判断にゆだねられているものであり、審査請求人が右の申立てをしたとしても、それによって、審査庁が原処分庁に対して物件提出要求をすることが義務付けられるものではない。

被告は、本件審理手続において、原処分庁から本件指定の理由となった事実を証する書類が提出され、これにより本件指定の適法性、妥当性が認められたこと、その一方、原告がこれを疑わせるに足りる証拠を提出していなかったことにかんがみ、原処分庁に対し、提出されたもの以外の物件の提出を求める必要がないと判断して、原告の申立てを却下する旨を決定したのであるから、右決定は適法である。

(2) 被告は、原処分庁及び原告が提出した証拠書類のすべてを検討した結果、本件審査請求を棄却すべきであると判断した。その際、被告は、右書類の複写物等を使用した。

3  本件裁決には、形式不備があるか否か。

(一) 原告の主張

被告は、本件審理手続において、前記1(一)のとおり行服法三一条等に違反する行為をしようとしたので、原告は異議を申し入れ、被告に釈明を求めたが、被告はこれに応じなかった。

ところで、原告は、被告の法令違反や釈明義務違反について不服申立てができないのであるから、被告は、原告の右主張について裁決で判断すべき義務がある。それにもかかわらず、被告は、本件裁決において、右主張を摘示せず、その判断を示さなかったのであるから、本件裁決は、形式不備があり違法である。

(二) 被告の主張

行服法四一条一項が裁決には理由を付さなければならない旨を規定している趣旨は、審査庁の判断を慎重ならしめ、恣意を抑制するとともに、審査請求人の不服事由に対する判断を明確ならしめることにある。

したがって、裁決書に記載する理由は、原処分に対する審査請求人の不服事由に対応して、その結論に到達した過程を明らかにしなければならないが、審査請求手続に関する主張に対する判断まで記載しなければならないものではない。

第三争点に対する判断

一  争点1(警察庁職員が本件各陳述の聴取を担当したことは、適法か否か。)について

1  証人村上泰の証言及び乙一ないし五号証によれば、警察庁長官は、平成四年六月二三日、警察庁職員村上泰、吉田英法及び内藤浩文(以下「村上審理官ら」という。)を規則三条一項所定の審理官に指名したこと及び同人らは、本件各陳述の聴取等本件審査手続の事務処理を担当したことを認めることができる。

2  行服法三一条は、審査庁は、必要があると認めるときは、その庁の職員に、同法二五条一項ただし書の規定による審査請求人若しくは参加人の意見の陳述を聞かせ、又は同法二七条の規定による参考人の陳述を聞かせることができる旨を定め、審査庁の職員に審理手続の一部を行わせることを許容している。

右規定の趣旨は、行政機構が複雑化し、審査庁自らにおいて審査請求の審理手続を処理するには困難が伴うことにかんがみ、審理手続の適正化及び合理化を図るために、審査庁の権限の一部をその職員に委譲して、その庁の職員として行うことを認めたものである。このような右規定の趣旨に照らせば、「その庁の職員」とは、審査庁の指揮監督権の下に審査庁の事務を補助する職員をいうものと解するのが相当であり、当該職員が審査庁の指揮監督権に服するのであれば、必ずしも審査庁の内部部局に属する職員に限られるものではないというべきである。

ところで、警察法一五条は、国家行政組織法八条の三に規定する特別の機関として、被告に警察庁を設置する旨を定め、警察庁は、被告の管理の下に、警察法五条三項所定の被告の権限に属させられた事務について被告を補佐する機関とされている(同法一七条)ところ、三条指定に係る審査請求の審理は被告の権限に属する事務である(暴対法二六条一項)ことから、警察庁は、右事務について、被告を補佐することになる。

そうすると、規則三条一項に基づき警察庁長官から指名された村上審理官らは、本件各陳述の聴取の事務の実施に関しては、被告の事務を補助する職員として、行服法三一条に規定する「その庁の職員」に当たるものと解するのが相当である。

また、行服法三一条により、その庁の職員に同条所定の事務を行わせる必要があるかどうかの判断は、同条の文言上、審査庁の合理的な裁量にゆだねられているものと解すべきであるところ、被告は、事務処理のための独自の補助、執行機関たる事務局を有していない上、弁論の全趣旨によれば、本件審理手続においては、多岐にわたる事実上及び法律上の主張がなされ、多数の証拠が提出されるであろうことが容易に予測できることに照らせば、被告が、本件審理手続を適正かつ合理的に遂行するためには、指揮監督に服する職員に補佐させる必要があるものと判断したことは、相当であったというべきである。

以上の点に関し、これに反する原告の主張は採用することができない。

3  これに対し、原告は行服法三一条に規定する「その庁の職員」とは、審査庁が直接指揮監督することができる職員をいう旨主張する。

しかし、前記のような同条の趣旨にかんがみれば、右「その庁の職員」とは、審査庁が同法に定める適正な審理手続を行わせる程度に指揮監督できる地位にあるものであれば足りるのであって、必ずしも直接指揮監督権を有する職員に限定することは相当ではないと解すべきである。

そうすると、規則三条一項に基づき、被告の管理に服し、警察庁の庁務を統括し、同庁の職員の服務を統督する警察庁長官(警察法一六条二項)によって指名された村上審理官らは、同長官の指揮監督を通じて、被告の管理の下に職務を遂行することになる点で、被告が右にいう程度の指揮監督権を及ぼし得る者として、行服法三一条にいう「その庁の職員」に当たるというべきであり、原告の主張は採用することができない。

4  次に、原告は、被告が本件各陳述の聴取を警察庁長官に委任したことは、暴対法二六条一項の規定による審査請求に係る事務の委任を禁止した暴対法二九条に違反する旨主張する。

しかしながら、前記のとおり、村上審理官らは、あくまで被告の本件審理手続に係る事務を補助するための行服法三一条にいう「その庁の職員」として、規則三条一項に基づき選任されたにすぎないのであって、被告が、警察庁長官に対し、右事務を委任したわけではない。そうすると、原告の右主張は、その前提を欠き失当であるといわざるを得ない。

なお、原告は、右の点に関連し、規則三条一項は暴対法二九条に違反する無効なものであるとも主張するが、規則三条一項は、行服法三一条の「その庁の職員」を選任するための内部手続を定めた規定にすぎず、警察庁長官が、審査請求手続に関する事務について、被告から委任を受けることを前提とした規定ではないから、この点に関する原告の主張も失当であり、採用することはできない。

5  また、原告は、本件各陳述の聴取は被告の権限に属させられた本件審理手続における主要な部分であるから、これを他に委任することは許されず、仮に、警察庁職員が補佐の限度で従事できるとしても、本件各陳述の聴取及び裁決に熟したか否かの判断を右職員に担当させることは、補佐の範囲を逸脱している旨主張する。

なるほど、裁決における事実認定、法令の解釈、原処分の相当性に対する判断など裁決の結論については、あくまで被告の最終判断にゆだねられるものであって、被告が、右判断の基礎となる心証を左右するような事務を他に委任することができないことはいうまでもない。これに対し、審査請求人の口頭による意見陳述及び参考人の陳述を聴取する事務は、その結果を正確に書類に再現して被告に報告し、審理の資料にするための作業にすぎないものであって、行服法三一条も、右のような見地から、右陳述聴取事務をその庁の職員に行わせることを認めているのであるから、右事務を他に委任することは許されないとする理由は見当たらず、また、本件各陳述の聴取を警察庁職員に担当させても、補佐の範囲を逸脱することにはならないことは明らかである。

さらに、証人村上泰の証言及び乙三号証によれば、村上審理官らは、原告及び原処分庁の主張、立証が尽きたものと認め、被告において裁決がなされるに熟したと判断したため、平成四年一〇月一二日、規則三条三項に規定する審理経過調書を作成したことが認められるところ、裁決がなされるに熟したか否かは、審理の経過に基づき、裁決をするのに必要な資料が提出され尽くしたか否かという観点から判断するものにすぎないのであるから、右のような判断を審理官がしたとしても、補佐の範囲を逸脱しているということはできない。

したがって、原告の右主張は、いずれも失当である。

6  さらに、原告は、被告が、本件審理手続に関する事務を直接警察庁職員に委任したことを前提として、右委任には法令上の根拠を欠く旨主張する。

しかし、村上審理官らは、行服法三一条に規定する「その庁の職員」として、本件審理手続に関する事務について被告を補助したものであることは、前記のとおりであるから、原告の主張は、その前提を欠き失当である。

7  以上によれば、村上審理官らが本件各陳述の聴取を担当したことは、適法であるというべきである。

二  争点2(本件審理手続において、十分な審理が尽くされたか否か。)について

1  証人村上泰の証言及び乙三号証によれば、本件審理手続において、原処分庁は、被告に対し、平成四年八月二七日、弁明書及び本件指定の理由となった事実を証する書類を提出したこと、そのため、被告は、原処分庁に対して物件提出要求をする必要がないものと判断し、原告の右申立てを却下したこと、警察庁刑事局長及び同局暴力団対策部長は、同年一〇月一五日、審理経過調書、審査請求書、反論書、弁明書、原告又は原処分庁から提出された証拠書類の写し、口頭意見陳述録取書、参考人陳述録取書を被告各委員に示して判断を求めたところ、審査専門委員の意見聴取を行うことが決定されたこと、村上審理官らは、本件審査請求を担当する審査専門委員五名に対し、審査請求書、反論書、弁明書及び証拠書類の写し等を事前に配付した上、一〇月二一日、意見を聴取したところ、右の全委員から、原告は暴対法三条一号の要件を充たす旨の意見書が提出されたこと、被告は、審査専門委員から提出された意見書の内容の報告を経た上で、本件審査請求を棄却する旨の決定をしたことを認めることができる。

2  以上の事実によれば、本件裁決が、十分な証拠に基づかないでされたとか、証拠書類等の検討なしにされたとかの原告の主張は、到底認めることはできず、かえって、被告は、本件裁決をするに当たり、十分な審理を尽くしたことが認められる。

三  争点3(本件裁決には、形式不備があるか否か。)について

甲一三号証によれば、本件裁決は、行服法四一条所定の裁決の方式を備えていることが認められる。

この点、原告は、本件裁決が被告の法令違反及び釈明義務違反の有無について判断を示さなかったことは形式不備である旨主張する。

しかしながら、行服法四一条一項が裁決には理由を付す旨を規定している趣旨は、これにより審査庁の判断を慎重ならしめ、その公正を保障するとともに、審査請求人に対して審査庁が判断に到達した理由を知らせて、審査請求の当否について再考する機会を与え、後に訴訟で争うものについては争点を明確にすることにある。そうであるならば、裁決に付記される理由は、その結論に至るまでの論理的な判断の過程を明らかにし、審査請求人が右判断の根拠を理解し得る程度に記載されていれば足りるものであって、たとえ、審査請求人の審理手続に関する主張についての判断を示さなかったとしても、理由付記として欠けるところはないというべきである。

したがって、本件裁決には形式不備は認められず、原告の右主張は失当である。

四  なお、原告は、被告自身が日本最大の暴力団であるから、審査請求に対する判断主体としての適格性を欠き、被告に裁決権限を与えた暴対法二六条は、憲法一三条及び三一条で保障した適正手続の保障に違反する旨の特異な主張をするが、右主張は、原告独自の見解にすぎず、到底採用することができない。

五  以上によれば、原告の主張は、いずれも失当であるというべきであり、他に本件裁決を違法とすべき事由を認めることはできない。

よって、原告の請求は、理由がないから、これを棄却すべきこととなる。

(裁判官 秋山壽延 竹田光広 森田浩美)

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